Projct
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PROJECT 01 : カテーテル開発プロジェクト
患者さんの負担が少ない医療として近年急速に進歩をとげている、血管内カテーテル治療。「カテーテル」と呼ばれる細い管を血管内に挿入して治療を行う。なかでも患者さんの身体的負担がより少ない手首から行うカテーテル治療、TRI(Trans Radial Intervention)において、テルモはグローバルでプレゼンスを示している。世界が認めるその独自技術を深化させつつ、次世代を見据えた開発に挑戦する技術者たちの物語を紹介する。
MEMBER
K.Oさん
心臓血管カンパニー TIS事業R&D部門
2007年入社|材料系卒
入社以来、コーティング材の開発に従事。現在は製品開発も兼務する。
T.Mさん
心臓血管カンパニー TIS事業 R&D部門 技術開発G コーティングチーム
2016年入社|化学系卒
コーティング材の開発に携わった後、2019年に現職に。開発チームのリーダーを務める。
M.Kさん
コーポレートR&Dセンター コアテクノロジーグループ
2011年入社|生物系卒
入社後、現部門に配属。現在は10年先を見据えた素材開発に取り組む。
C.Nさん
心臓血管カンパニー TIS事業 カテチーム研究開発課 カテーテルチーム
2019年入社|物理系卒
入社後、ほぼ一貫して新規マイクロカテーテルの製品開発を担当。
CHAPTER /
01
「インターベンション分野におけるテルモの歴史は、1985年に発表したMコート(親水性ポリマーコート)を使ったガイドワイヤーから始まりました。水に濡れると“ヌルヌル”滑るMコートを活用したガイドワイヤーはそれまでの常識を覆すもので、世界をあっと驚かしました」。
そう話すのは、コーティング材開発を牽引するチームのリーダーを担うT.Mさんだ。彼の言葉にある「ガイドワイヤー」とは、カテーテル治療に使用する医療デバイスを病変部まで導くワイヤーのこと。細く複雑な血管の中を通すためには、なめらかな「滑り性」がきわめて重要な性能となるが、その要求を世界で初めて親水性の材料に着目して高次元で実現したのが、テルモなのである。
T.Mさんが率いる開発チームでは、テルモが長きにわたって築いてきたコーティングのコア技術をさらに深化させていくために、基礎研究から新材料の探索、既存材料の改良、そして製造プロセスまで幅広い開発に取り組んでいる。T.Mさん自身も最前線の技術者として新しいテーマに挑む一人だ。
「腹部用の新マイクロワイヤーに使用するコーティング材の設計を担当しています。最近のカテーテル治療で求められているのは、血管の末梢までデバイスを到達させること。そのために、従来の滑り性に加え、柔軟性、さらには生産性も高めた新コーティング材の開発に取り組んでいます」。
この製品は主に肝がんの治療に用いられる。実用化されれば数多くの患者さんにより負担の少ない治療を届けることができるはずだ。
CHAPTER /
02
Mコートに続く、新世代のコーティング材の創出も重要なテーマだ。そのミッションを担う技術者の一人がK.Oさんである。彼が新規コーティング材の開発に着手したのは2010年のこと。目指したのはMコートを超える、グローバルトップの滑り性だ。
「基礎的な研究を積み重ね、“これならいける!”と確信できる材料にたどり着くまで1年以上かかりました。しかし、そこからまたいくつもの壁を突破しなければならなかったのです」。
量産化に向けた試作では、不良品が続出して凹んだことも。その失敗を挽回するために、人生最多というくらい実験を繰り返した時期もあった。そしてついに製品化を実現。ある学会に参加した専門医から「コーティングがよくなった」という言葉を聞いた時は、飛び上がらんばかりに嬉しかったという。10年以上の歳月を費やした不屈のマインドも凄いが、そんなチャレンジを受け止め続けた懐の深い環境があることも忘れてはならない。「自分が本気だったからこそ、まわりの仲間たちも支え続けてくれた。テルモならではの恵まれた風土だと思います」。
K.Oさんは現在、コーティング材ばかりでなく、カテーテルそのものの開発にも携わっている。その新製品に、自分が開発したコーティング材を適応させることが直近の目標だ。
CHAPTER /
03
T.MさんやK.OさんたちのDNAは着実に次の世代へと受け継がれている。M.Kさんは、全社的な視点で研究開発を推進するコーポレートR&Dセンターで10年先を見据えたテーマに取り組む技術者だ。
「若手の頃、K.Oさんが率いる開発チームに加わっていた時期があります。K.Oさんの真摯な姿勢に刺激を受け、“新しい価値を生み出す開発に挑め!”と背中を押されました。それがきっかけでチャレンジし始めたのが現在の開発テーマなのです」。
M.Kさんが着目したのは、滑り性に加えて、高耐久性という今後高まると予測される新しいニーズに対応した新規コーティング材。2014年にスタートした開発は、いきなり大きな壁にぶつかった。それを打ち破っていった不屈なマインドもK.Oさんによく似ている。
「自分の力不足もあって、開発がペンディングになってしまったのです。それでも“この技術は将来のテルモに絶対に必要になる”という信念を抱き、一人でコツコツと続けていました。そんな姿勢も評価され、プロジェクトが再び動き出すことに。今度こそ絶対にものにするぞと強く決意しました」。
開発が停滞していた時期も上司や先輩たちはM.Kさんをやさしく見守り、支えてくれたという。その新素材も間もなく製品化への検討が始まるというステップに近づいてきた。「素材の力で患者さんにやさしい医療を実現したい」という夢を抱いてテルモに入社したK.Mさん。一緒に歩む仲間たちとともに、その想いが叶うのもそう遠い未来ではないだろう。
CHAPTER /
04
これらのコーティング材はきわめてセンシティブな素材であることに加えて、その素材を搭載するカテーテルは体内で使用される医療デバイスでもあり、製造には高次元の品質と安定性が要求される。入社3年目のC.Nさんは、この製品化の鍵を握るコーティング材の工程設計に携わっている。
「現在、心臓用の新規マイクロカテーテルの工程設計を任されています。新規のコーティング材を搭載した製品のため、開発は試行錯誤の連続。素材の設計、前処理、コーティング、加熱処理など、工程に関わるパラメーターは数多く、そこから最適解を見出していかなければなりません。また、量産化を実現するにはプロセスの再現性・安定性も重要です」。
C.Nさんもまた、K.OさんたちのDNAを受け継ぐ技術者の一人である。というのも、現在C.Nさんが製品化に取り組む新規コーティング材は、先に紹介したK.Oさんが開発した素材なのである。C.Nさんは、事あるごとにK.Oさんのもとを訪れ、工程設計に関する相談をしている。また、C.NさんはT.Mさんが率いる製造プロセス革新プロジェクトにも参加している。このように組織の枠組みにとらわれることなく、多様な先輩たちから学べる環境もテルモの特徴だ。
「この製品は既存のものに比べてさらなる深化を遂げており、世界中の患者さんに貢献できるはず。上市される日が楽しみですね。また、この経験を活かして、将来的には私もコーティング材そのものの開発に挑んでみたいと思っています」。
最先端領域でのブレイクスルーによって世界中の患者さんに貢献していく。その道のりはけっして平坦ではないが、「患者さんの負担を減らす」その使命感があるからこそ、明日に向かって進み続けられる。この揺るぎない想いと、それに伴う挑戦の積み重ねこそが、時代が変わってもなおテルモの技術を磨き続けているのである。